Array

【開催レポート】アーバンデザイン・スマートシティスクール第3回レクチャーをおこないました

 2022年9月3日(土) 午後2時から、アーバンデザイン・スマートシティスクール松山2022 第3回レクチャーがZoomにて開催されました。またその様子は、アーバンデザイン研究会としてYouTubeにてライブ配信されました。

 今回は、「松山のミュージアムを識る」をメインテーマに、松山を代表するミュージアムである子規記念博物館、坂の上の雲ミュージアム、伊丹十三記念館から3名の学芸員の方々をお招きし、ご講義いただきました。

 はじめに、平岡瑛二氏(子規記念博物館 学芸員)から、博物館のコンセプトや展示、俳句大会などの博物館主催の活動についてご説明をいただきました。その中で、「正岡子規という一人の人間を見ると、俳人や歌人、明治時代を生きた青年などさまざまな側面がある。子規の生涯を通じて、松山の伝統や文化、近代文学、近代史といったことを広く見てもらおうという展示をしている。」というお話が印象に残りました。

 つづいて、德永佳世氏(坂の上の雲ミュージアム 学芸員)から、坂の上の雲ミュージアムが持つ3つの機能(小説「坂の上の雲」などに関する展示機能・フィールドミュージアムのガイダンス機能・まちづくりの支援機能)や展示デザインについてお話しいただきました。展示デザインについては、視覚的、聴覚的に人々に見せていくことを通して、小説について改めて思索を深められるような展示空間の構成をおこなっているとし、イラストを用いた展示デザインや模型や音声を使った場面の立体再現、空間演出など実例写真をふまえながらご紹介いただきました。

 つづいて、中野靖子氏(伊丹十三記念館 学芸員)から、記念館のコンセプトや学芸員の日常業務、企画展の構想についてお話しいただきました。まず、記念館の概要と設立経緯について、映画監督である伊丹十三の生い立ちや松山との関わりをふまえながら、ご説明いただきました。また、記念館の設計デザインについて、外観・内観の写真や平面図を用いながらご紹介いただきました。さらに、館内の展示構成について、伊丹十三の少年時代から映画監督になるまでの仕事や趣味について、年代を辿るように展示されているとした上で、多様な展示デザインが施された館内写真をふまえながらお話しいただきました。そして、企画展の構想については、開館からおこなわれてきた6つの企画展を遡りながら、その概要や背景などをご説明いただきました。お話の中で、「誰にでも覚えがあること、みんながやっていること、みんながもやもやと疑問に感じていることを切り口にすると、お客様にも興味を持っていただけて、伊丹十三を(映画監督としてだけではなく、)また違った側面から見ていただけるのではないかと思う」という言葉が印象に残りました。

 講義後は、羽藤英二UDCMセンター長と3名の学芸員の方々によるクロストークがおこなわれました。まず、羽藤センター長から、講義の感想として、各ミュージアムがもつデザインの個性についてお話しいただきました。それぞれに展示されている年表から見られる時代、時間の表現の仕方など細やかに施されるデザインの工夫に触れながら、「展示を見ている者の人生と展示されている者の人生が近づいていくような感覚が『展示』から生まれる」と述べられました。また、正岡子規、司馬遼太郎、伊丹十三という3人の創作者と松山との接点について触れながら、「松山というまちが変わっていく中で、彼らがどのような創作活動を行なっていたのかを知ることや、人々が生きた時代を表している都市という器を表現することで、彼らが生きた時間をもう少しだけ近くに感じるきっかけになるのではないか」とお話しいただきました。

 さらに、羽藤センター長は、ミュージアムは展示機能だけではなく、文化的な場所としての機能もあるとした上で、3名の学芸員の方々に対し、『学芸員として感じる課題や苦労』という話題提供がなされました。平岡氏からは、年代の古い資料は文字資料が多いので、単にパネル化するだけではなく、映像やイラストなどを用いた工夫が必要な点を挙げられました。また、中野氏からは、伊丹十三記念館が郊外に位置し、観光向きでない点を挙げ、来館者数を伸ばすための課題について述べられました。そして、德永氏からは、若い世代に関心を持ってもらうための展示のあり方について取り上げ、さまざまな仕掛けを作って、展示の中に入っていきやすくする工夫が必要と述べられました。羽藤センター長からは、ミュージアムの外を出たときに、当時の時代が感じられたり、当時の情景に共感できるようになるといいとした上で、本スクールの受講生にも、時代を超えて、共感を生み出す仕掛けをいろいろな表現の仕方で挑戦してもらいたいとしました。

 質疑応答の時間では、スクール受講生から「ミュージアムは一回行ってしまうと、その後行かなくなってしまうことが多いが、何回も見るからこそ味わえる、考えるというようなことがあれば教えてほしい」という質問が上がりました。これに対し、中野氏からは、「毎日の生活の中でも、目がいくところが違うと思う。変わらないものを見て、自分の変化を感じることに楽しさを覚えたり、お客様の見方から新たな発見を感じ取ることが楽しい」とお話しいただきました。

 最後に、羽藤センター長は、「今、ミュージアムが地域資源を価値化させるものとして重要なインフラストラクチャーだと認識されるようになってきている。地域の人に新しい気づきを与えられるような、地域デザインミュージアムをつくっていけたらと思う」と述べられ、今後のスクール活動に大きな期待を寄せました。

 今回は、展示のデザインや表現を学ぶだけではなく、学芸員の皆さまの展示に懸ける想いに触れられる、大変貴重なレクチャーとなりました。各班の活動に大きな推進力を与えてくださったように思います。今度の週末は、展示の勉強と息抜きを兼ねて、ミュージアムを訪れてみるのも良いかもしれません!私もミュージアムでのんびり休日を過ごしたくなりました。(TA中出)

 ➤アーバンデザイン・スマートシティスクール2022 まとめページ