松山市駅前広場におけるレーザーセンサー(3D LiDAR)を用いた人流計測の実証実験
1)実証実験の概要説明
株式会社日立製作所、株式会社日立情報通信エンジニアリング(以下、日立)は、2020年11月27日(金)~28日(土)の2日間、愛媛県松山市の松山市駅前広場において、レーザーセンサー(3D LiDAR)を用いた人流計測の実証実験を国土交通省「3D都市モデルを活用した都市活動モニタリング等の技術実装業務(レーザーセンサーを活用した人流軌跡データ自動生成システムによる分析等の実施)」の受託事業として実施しました。
3D LiDARを用いた⼈流解析技術は、レーザー光を用いて対象となる人との距離を計測し、人の動き、流れ、滞留状況などを把握する技術です。また、写真や映像を取得せず正確な人の位置情報を計測可能な3D LiDARを用いることで、プライバシーを考慮しつつ高精度かつリアルタイムに都市活動を把握することが可能です(*1)。
実証実験では、松山市やUDCM(松山アーバンデザインセンター)と連携し、計測データを駅前広場整備の合意形成・計画策定のための検討材料とするほか、市民およびまちづくり関係者を対象とするワークショップにも活用する予定です。また、広場内施設の利用状況などを把握することで、植栽やベンチの設置箇所など広場の細部の空間設計に活用することも目指します。
なお、本受託事業は、国土交通省が「Project “PLATEAU (プラトー)” 」として推進している、3D都市型モデルの整備と、これを活用した都市計画・まちづくり、防災、都市サービス創出等の実現を目指す「まちづくりのDX」の取組の一環です。
Project “PLATEAU” Webサイト: https://www.mlit.go.jp/plateau/
Project “PLATEAU” Webサイトにおける日立の取組み「都市活動モニタリング ”レーザーセンサーによる高精度でリアルタイムな人流計測”」紹介ページ: https://www.mlit.go.jp/plateau/use-case/activity-monitoring/
*1: 動線計測ソリューション:https://www.hitachi-ite.co.jp/products/o-tracking/index.html#p03
2)実証実験の結果
人流計測データの分析・可視化結果の内、代表的な結果について記載します。
■人流の可視化動画
【分析方法】
人流可視化動画
【分析結果と考察】
11月27日(金)の朝(8時頃)と夕方(17時頃)の松山市駅前広場の人流を可視化した動画です。赤い点は人の現在位置であり、点から繋がる尾は移動軌跡を表します。可視化動画では人の動きに沿って赤い点が移動します。
動画1は、8時頃の人の流れです。朝の時間帯は、松山市駅(郊外線)コンコースから北側の商店街に人が流れていく様子が確認できます。郊外線の到着により多くの人が降車し、松山市駅から松山市内に移動する人の流れがあることが分かります。
動画2は、17時頃の人の流れです。朝とは逆に、夕方の時間帯は、松山市駅(市内線)あるいは北側の商店街から松山市駅(郊外線)コンコースへ人が流れていく様子が確認できます。
朝夕ともに、横断歩道の信号のタイミングでエリア内の人の流れが変動する様子が観察できます。
■人流の軌跡
図1:人流軌跡重畳図(曜日別)
【分析方法】
人の移動軌跡を可視化
【分析結果と考察】
曜日の違いによる人の流れの変化を人流軌跡重畳図を用いて示します(図1)。人が通過した場所の軌跡を青線で描画しており、色が濃い(線が多い)場所は人の往来が多く、色が薄い(線が少ない)場所は人の往来が少ないことを表します。
通行経路において、軌跡の色が濃い箇所の分布から、時間帯ごとに人の流れが集中しやすい箇所を抽出することができます。
平日の方が人の流れが多く、通勤・通学者の駅前広場の利用が多いことが推測されます。また、図中央右側に位置する公衆トイレへの人の流れが確認されました。高島屋前歩道側、市電降車側、商店街歩道側など多方面からの移動軌跡が認められ、平日/休日に関わらず、公衆トイレが市民に利用されていることがわかりました。
■松山市駅前広場の利用者数
分析対象エリア
図2:松山市駅前広場の利用者数(11月27日)
【分析方法】
各エリア(商店街歩道、市駅前電停エリア、高島屋前歩道)の1時間当たりの人数をカウント
【分析結果と考察】
11月27日(金)の松山市駅前広場の各エリアの利用者数の推移を図2に示します。
高島屋前歩道は、朝と夕に大きなピークが見られ、目視観察の結果でも実際に朝夕のピーク時には信号待ちなどでかなりの混雑が確認できました。今後の駅前広場の改変にあたっては、適所へのベンチの設置や滞留空間を広く設けるなどの空間設計が混雑緩和に有効と考えられます。
一方で市駅前電停エリアと商店街歩道の利用者数にはピークは確認されないため、今後の再整備によって利用傾向の異なる3つのエリアの利用者数が平準化されて、朝夕の、特に信号待ちで見られる混雑が緩和されることが期待されます。
■松山市駅前横断歩道、高島屋前歩道の歩行速度分布
左:分析対象エリア
右:平日朝の松山市駅前横断歩道の様子。通勤通学者が足早に移動する。
図3:松山市駅前横断歩道の歩行速度分布(11月27日)
図4:松山市駅前広場での移動速度分布(11月27日)
【分析方法】
横断歩道横断中の歩行速度を算出、速度分布をヒートマップで可視化
【分析結果と考察】
11月27日(金)の朝と昼の松山市駅前横断歩道の歩行速度分布グラフを図3に示します。平均的な歩行速度である1.3m/sよりも朝は早足で、昼は比較的ゆっくり通行していることが分かります。
また、同日の8時台と11時台の速度分布をヒートマップで表します(図4)。赤いほど速度が速いことを示し、朝の時間帯は昼の時間帯と比較して全体的に移動速度が速く、特に高島屋前歩道の差異が顕著です(図4中、白枠内)。
目視による観察でも日中は市内電車を活用して駅や商店街を訪れるゆっくり歩く高齢者の方の姿を多く見かけましたが、データからもその傾向を読み取ることができます。
■松山市駅前横断歩道の通過所要時間
分析対象エリア
【分析方法】
高島屋側横断歩道と商店街横断歩道の通過時間を算出
【分析結果と考察】
高島屋前の横断歩道から、商店街側の歩道に抜けるまでに歩く速度の遅い人で平均60秒、標準的な速度の人で40秒かかっていることがわかります(信号待ちの時間を含む)(図5)。
通過所要時間を分析することにより、信号の切り替えのタイミングや駅前広場整備の検討材料に活用することで、安全・安心なまちづくりに寄与できると考えられます。
図5:高島屋側横断歩道ー商店街横断歩道間の通過時間分布
3)実施企業
株式会社日立製作所、株式会社日立情報通信エンジニアリング